天井裏に棲みつく者

 

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高校卒業して間もなく、俺は一人暮らしを始めることに。

しかし、貯金なんて1円も無かった俺はとにかく安い物件を探していた。

すると一件だけ、気になる物件があった。

駅から近く、日当たりも良い。見た目も悪くない。おまけに駐車場まで付いてる。

 

「ここだけやたら安いと思うんですけど、何か理由があるんですか?」

すると不動産屋はこう言った。

「詳しい話は僕もよくわからないのですが、入居したお客様みんな、1ヶ月以内に引っ越しをされます」

「なにか霊的なものでしょうか....?」

「それがですね、この部屋で人が亡くなったとかって話は無いんですよ。この物件が気になるようでしたら大家さんに電話して聞いてみますか?」

 

とにかく安く済ませたかったので、お願いする事に。すると後日、大家の方から俺の携帯に電話がかかって来た。

 

「もしもし、丸谷さんですか?」

「はい」

「ウチのアパートなんですけどね、人が死んだって事も無いし、霊を見たっていう話も無いんですけど、一つ問題がありましてね。時々天井裏から足音が聞こえるらしくて」

「足音?動物とかでは無いんですか?」

「確認してみたんですけど、何も居ませんでした。そんなに大きな音じゃないんですけど、やっぱ気になる方が多いみたいで」

「そうでしたか。けど確か、2階は2部屋ありましたよね?201号室の人は平気なんでしょうか?」

「それがですね、201号室に住んでる女性は一度も足音を聞いた事が無いと言っていました」

「変ですね。天井裏から鳴ってるなら、その人も聞こえてるはずなのに。その方はどれくらい住んでるんですか?」

「約1年ほどですね」

「そうですか。まぁ、隣人には聞こえてないくらいの小さな足音なら我慢出来る思います。3階があるアパートだと思い込めば。202号室、契約しても良いですか?」

「ありがとうございます。もし何かありましたら、アパートの目の前に私の家がありますのでいつでも来て下さい」

「わかりました。ありがとうございます」

 

優しい大家で良かった。

そんなこんなで、俺はその部屋に住む事になった。引っ越して来て1週間ほどは何事もなく快適な生活が出来ていたのだが、ある日の夜、例の足音が聞こえて来た。

 

ミシ.....ミシ.....ミシ......

 

身構えてはいたが、実際に足音を聞いてみると確かに不気味だ。明らかに小動物の足音ではなく、人間の足音のように聞こえる。

天井裏を確認する勇気も無い。

するとその足音は15分ほどで消えた。

 

それから、足音は3日に1回くらいのペースで聞こえて来た。しかし俺はある事に気づく。

足音の鳴る時間帯はいつもランダムだが、必ず夜だという事。

それ以外の共通点が無いか探してみた。

 

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2週間ほど過ごしてもう一つ、足音の発生条件がわかった。 

足音は、201号室の排気口から湯気が出てる時に鳴る。

 

俺は嫌な予感がした。

 

次の日の夜、また足音が鳴り始めた。窓の外を確認してみると、やはり201号室の排気口から湯気が出ている。

俺は勇気を振り絞って、懐中電灯を持ち天井裏を覗いて見た。するとそこには、

 

 

 

不敵な笑みを浮かべながら201号室を覗く大家が居た。

 

隣人が女性であること。

大家がアパートの目の前に住んでいること。

そして、隣人が一度も足音を聞いた事が無いと言っていた理由。

点と点が繋がり、全てを理解した。

 

大家は201号室の女性がシャワーを浴び始めた瞬間、天井裏に忍び込んで浴室を覗いていた。

そして隣人の女性はシャワー音で足音に気づかなかったのだろう。

 

俺は警察に通報し、大家は容疑を認めた。

 

 

 

あなたがシャワーを浴びてる時、誰かの視線を感じる事はありませんか?

そんな時は天井を見てみて下さい。

誰かがあなたのことを見つめているかもしれません。

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