シロナガスクジラに飲み込まれた時の話

アレは中2の頃ですね。中2の8月だったかな。友達と海に行った時の話です。

 

最初は浅瀬で楽しんでたんですけど、気づけば沖の方へ移動してて、いつのまにか遊泳禁止区域に侵入しちゃってたんですよ。

すぐに戻ろうと思いシュノーケルをつけて潜ったのですが、自分の足元に信じられないほど巨大なクジラが居ました。

みんなに知らせようとした瞬間、あっという間にクジラは僕を丸呑みしました。リボルバーズ丸呑みです。

 

何が起きたのかもよくわからぬまま、気付けばクジラの体内に。クジラの体内は驚きの連続でした。普通に呼吸が出来る事(めちゃくちゃ臭いけど)、予想をはるかに上回るほど広い胃袋。

1番驚いたのが、クジラの体内にエネオスがあった事です。(いきなりステーキもありました)

しかし出口は一向に見当たりません。

この先どうすれば良いのだろう。途方に暮れ、トボトボと歩いていると1人のオッサンが僕に声をかけて来ました。

 

「うおっ、新入りか!?」

 

僕以外の人間が本当に居るとは思ってなかったので、僕はビックリして尻餅をつきました。

 

「ビックリしたか?俺は下田。9年前にクジラに飲み込まれてな。気付けば30だよ。ハハ」

 

9年...。小学1年生が中学を卒業するまでの期間、このオッサンはこんな所で生活を...。

不安はさらに大きくなった。

 

「お前、中学生か?そこに中学校があるから、そこに転入するといい」

 

オッサンが指差す方向へ歩いていくと、3分ほどで中学校の門が現れた。

『私立シロナガス中学校』

 

なんだこれは。誰が校長で誰が生徒なんだ。

中学校が出来るほどたくさんの人間がクジラに飲み込まれてるのか。

ちょっとした田舎よりここの方が都会だった。

 

俺はそれから1年間、シロナガス中学校で生活する事になった。全校生徒は30人ほどだったが友達もでき、ついに卒業の日を迎えた。

 

俺「今日で卒業だな」

友「ああ。丸谷は卒業したらどうするんだ?」

俺「俺は...新しいお店でも開くとするよ。お前は?」

友「俺は...外の世界へ行くとするよ」

俺「外の世界かぁ...俺も出てぇなぁ...。出口さえ見つかればなぁ...」

友「出口?何言ってんだ?丸谷」

俺「え?」

友「出口ならあるぞ」

俺「は?お前こそ何言ってんだ?どこに出口があるっていうんだよ」

友「ほら、あそこ」

 

彼は天井を指差した。

 

俺「あそこって、電気しかねーじゃねーか」

友「おいおい、アレは電気じゃねーよ。不思議に思わなかったのか?クジラの体内が明るいって事に。アレは電気じゃなく、外の世界の光だよ」

俺「はぁ!?いきなりステーキがあるくらいなんだから、電気があっても不思議に思わねーよ」

友「街の真ん中に噴水があったろ?」

俺「ああ、シロナガス公園の噴水の事か?」

友「あれ、噴水じゃねーぜ」

俺「え?」

友「アレはクジラが潮を吹いてるだけだ。つまり、あの噴水に乗れば外の世界へと出られるってわけだ」

俺「マジかよ....!じゃあなんでみんな外の世界に出ないんだ?」

友「そりゃお前、ここが気に入ったからだろう」

 

俺は何も言えなかった。それじゃあと手を振り背中を向ける友人を見つめながら、今までの生活を振り返っていた。

自分にとって、ここの生活と外の生活、どちらが大切か。

 

どう考えても外の世界に決まっている。

一気に噴水へ飛び込み、外の世界へと放り出された。

久しぶりの太陽はやけに眩しくて、新鮮な空気に感動すら覚えた。

当たり前の幸せなんてない。

 

ちょっとすいません。家出なきゃいけないし飽きたんでここで終わります。ありがとうございました。