口裂け女と良い感じになった時の話
高校3年の夏、薄暗い夜道を歩いて居ると向こうに人が立ってる事に気付いた。ピクリとも動かない。食い倒れ人形かな?と思いながらも近づくと、そこには赤いコートを着てマスクを付けた女の人が立っていた。右手にはカマを持っている。
「(100%口裂け女だ)」
正直、口裂け女の都市伝説は生きてて80回くらい聞いたことがあったので一目でわかった。
目の前を通り過ぎようとした時、その女は案の定俺にこう呟いた。
「私...綺麗...?」
なんてオリジナリティーの無い女だ。こんなに噂が広まってるんだからセリフを変えるべきだと思った。アドリブの効かない奴はバラエティーで扱ってもらえないぞ。そう思った。だがこんな事を口に出すと右手のカマで何されるかわからなかったので、口が裂けても言えない状況だった。(口裂け女だけに)
「綺麗だと思うよ」
俺は冷静にそう答えた。お次はどうせ、「これでも...?」と言ってマスク取るんだろう?そう思ったその時、
「これでも...?」
女はそう言いながらマスクを取った。本当に、なんてつまらない女なんだ。読み通りにも程がある。カラオケに行くと国家を選曲する男子学生とまるで同じだ。すたみな太郎でドリンクバーを全種類混ぜるタイプの奴だ。地震が来るたび、「おっぱい揺れた」とTwitterで呟いてそうな女だ。
読み通り過ぎて心に余裕があった俺は、
「へぇ、マスク取った方が良いじゃん。そんな綺麗な顔、隠してたらもったいないよ」
勿論、ビッグお世辞だ。正直、マスクを取る前からブスだと思っていた。口以前の問題だ。
口裂け女は驚いた様子だった。今までに無いタイプの返答だったからだろう。少し頬が赤く染まった気がした。
「じゃあね」
そう言うと、口裂け女は何か言いたげな様子でコチラを見ていたが、俺はお構い無しに家路についた。
次の日、同じ時間帯に同じ道を通ると、またもや口裂け女が居た。だが、その日はマスクをしていなかった。
「あれ、マスク取ったんだ。やっぱそっちの方がいいよ」
そう言うと口裂け女はうつむきながら、俺にこう言った。
「お前は...怖くないのか...?」
「怖く無いよ。口の大きさ気にしてんのか?そんなのより俺が毎朝出すウンコの大きさの方が100倍怖いよ」
口裂け女は笑った。口が大きいからちょっとでも笑うとワンピースのルフィみたいだった。不覚にも俺はドキッとした。幽霊だろうが妖怪だろうが、女性の笑顔には言い知れないパワーがある。
次の日も口裂け女はそこに居た。
その日は雨が降っていたので、俺はそっと傘を差し出し、こう言った。
「お前傘持ってねーのかよ。ったく、しょーがねーな。俺ん家で乾かすぞ」
すると口裂け女は申し訳なさそうな顔をしながら「でも...」と呟いた。
「風邪引くぞ?」
そう言うと口裂け女は俺の後をついてきた。
家に入れると彼女は小さな声で「お邪魔します...」と呟いた。可愛いところもあるんだなと思いながら、バスタオルを渡し「シャワー入って来いよ」と言った。
シャワーから上がり髪を乾かすと、ボサボサだった髪は綺麗に整った。またもや俺はドキッとした。彼女の顔を覗き込むと、何故か涙を流していた。
「なに泣いてんだよ」
口裂け女は泣きながら「こんなに人に優しくしてもらった事無かったから...」そう呟いた。
「誰だってコンプレックスの一つや二つ、抱えてるもんだよ。世の中完璧な奴なんて居ない。完璧な奴なんて俺くらいだ」
口裂け女は泣きながらも、少し笑みを浮かべながら「なにそれ」と呟いた。
口裂け女「あ、あの」
俺「ん?」
口裂け女「こんな女にこんな事言われて嫌かもしれないけど...」
口裂け女「...好きです。私と、付き合ってくれませんか...?」
口裂け女「(お願い...!よろしくお願いしますって言って...!)」
俺「よ...」
口裂け女「(ゴクリ...)」
俺「妖怪だから嫌だあーーーーーーーーーーーー!!」
この後、カマでズタボロにされました。